甘口ワインの世界と楽しみ方

はじめに

貴方は、甘口ワインと聞いてどんなワインを想像しますか。

飲みやすい… ドイツワイン、シュヴァルツェ・カッツ、アスティ、貴腐ワイン、アイスワイン、などなど人によって様々です。

今回は、口にするとホッと癒される優しい甘口から、デザートとしても楽しめる極上のものまで、飲むタイミングや楽しむシチュエーション別に、つくり方も合わせて解説したいと思います。

甘口ワインのつくり方

甘口ワインとは、ぶどうからワインをつくる工程で何らかの形で糖分を残した、糖分が残ったワインのことです。

スタイルは様々で、少し甘味を感じる気軽なものから、シロップや蜂蜜を思わせるような極甘口のものまであります。

甘口のワインの多くが、白ですが、ロゼ、赤、スパークリングの甘口ワインもあります。

甘口ワインのつくり方は大きく次の三つに分けられます。

やや甘口タイプのワインに多くみられるつくり方です。

ぶどうを潰し、皮や茎などを除き発酵させ、甘さが残る状態で人為的に発酵を止める方法。

発酵の過程で、果汁の糖分を酵母が食べてアルコールに変えますが、狙ったタイミングで冷却、発酵が進むのをストップさせます、残った糖分が甘味となります。結果、アルコール度数は他のワインより低めになります。

酵母が残っていると温度が上がった場合、再発酵の危険があるので清澄・濾過によって酵母を除いて熟成・瓶詰します。

もう一つ、ブランデー等のアルコールを添加して、アルコール度数を上げることで、酵母の発酵を止める方法もあります。

ポートワイン、ヴァン・ドゥ・ナチュレル ( バニュルス、ミュスカドボームドヴーニーズ) 、ヴァン・ド・リケール (ピノデシャラント)等です。

B. 果汁の糖度を上げる

貴腐ワインやアイスワイン、干しぶどうワイン、遅摘みワインがこれに当てはまります。

発酵の過程で、ぶどうの糖分を酵母が食べてアルコールに変えますが、アルコール発酵が終わっても甘さが残るほど果汁の糖度を上げる方法です。

アルコール度が15%を超えると酵母は活動を停止します。果汁の糖度が25度以上あればワインは甘口になります。なぜなら、15%を超えるアルコール生成が可能だからです。


C. 甘味を添加する

シロップや果汁、薬草エッセンスを添加するフレーバードワインがこの方法を取り入れています。スペインのサングリアなどもこのカテゴリーです。


飲むシチュエーションは色々

甘口ワインの飲み方、楽しむシチュエーションは色々、背景が違うと選ぶ甘さも変わります。

あなたは、どんな状況で甘口ワインを楽しみますか?

辛口のワインは飲みにくい、甘口の方が好きかも…

辛口ワインは飲みにくくて、あまり好きじゃない… こういう感想の方も少なくないはずです。

私の父がまさにそうでした。
いつもの晩酌で、夏はビール、冬は日本酒を飲んでいました。

ビールや日本酒と比べると辛口の白ワインは酸味が豊か、これをすっぱい感じ、飲みにくく苦手と感じていたようです。甘さがあることで酸味を柔らかく感じ、親しみやすくなっていたのだと思います。あとで紹介するアスティ・スプマンテが大好きでした。

甘さを美味しく感じるのは人によって違うようです。

対面でワインの販売をしていた時、最初は甘口スタイルのワインが好きだったお客様、ワインに親しみ回数を重ねると辛口スタイルに移行、よくあることでした。慣れや習慣で好みも変わるのでしょう。

ワインを飲むことが習慣化していない方は、多くの場合、ラベルを見ても分かりません、当たり前です慣れてないのですから。次には、スーパーなどでも見つけやすい優しい甘さの白ワインをいくつかご紹介してみます。


「シュヴァルツェ・カッツ」

「ツェラー・シュヴァルツェ・カッツ=Zeller Schwarze Katz」は、ドイツ語でツェル村の黒い猫という意味です。ラベルに「黒い猫」が描かれていて見つけやすいのが嬉しい。モーゼル地方で生産されるやや甘口タイプの白ワインです。

なかなか面白い逸話があるんですよ。

その昔、商人がワインの買い付けにモーゼル地方にやってきました。ツェル村を訪れた際に良いワインを買いつけるため、酒蔵を一軒一軒訪ね、ワインのテイスティングを行いました。候補を3つの樽まで絞ることができましたが、その中でどのワインを買い付けるか決められずにいました。試飲を繰り返していると、今まで何処に潜んでいたのか、一匹の黒猫が3つの樽の中の1つの樽に乗りました。見たとたん、「これが最も美味しいワインに違いない!」と即決したそう。実際にそのワインを飲んでみると、どの樽のワインよりも美味しかったとか。それ以来、黒猫が乗った樽のワインは最も出来が良いと言い伝えられるようになりました。

シュヴァルツェ・カッツは、「リースリング」や「ミュラー・トゥルガウ」などのぶどうでつくられます。白い花や柑橘類のような華やかな香りが心地よく、ぶどうの自然な甘みと爽やかな酸味がバランスよく調和していて、アルコール度数も9%程度と比較的低め(一般的な辛口白ワインの度数は13%程度)なので、とても飲みやすいワインです。



「甲州&デラウエア」

「甲州」や「デラウエア」でつくられた優しい甘口のワインも分かりやすくておすすめです。ただし、辛口スタイルのワインもあるのでラベル見て味わいを確認することをお忘れなく。

甲州

現在、甲州からは、様々なスタイルのワインがつくられています。

今回取り上げている、優しいやや甘口タイプのものをはじめ、主流になりつつあるフレッシュで軽やかな辛口スタイル、最近人気が上昇中のオレンジワインも見かけますし、熟成可能なしっかりとした味わいのもの、スパークリングワインまで色々です。


やや甘口スタイルの多くの甲州ワインは、酸味が柔らかくフルーティでアルコール度数もそれほど高くなく8~10%前後です。食前酒としても楽しめますし、食中酒として、特に家庭でいただくような和食と相性が良いようです。肉じゃがや煮物など、みりんや砂糖を調味料に使うので甘さが調和し美味しくいただけます。。

デラウェア

デラウェアは種がなく、果皮の色は赤紫色、糖度は20度前後と甘みが強いのが特徴のぶどう品種です。少し前までは甘口スタイルが主流でしたが、現在は、キリッとした辛口タイプが主流になりつつあります。

赤ワインと同じ製法の、ワインの醸造中にデラウェアの皮(種)も一緒に漬け込み発酵することにより、ワインの色合いが濃くなる「オレンジ」タイプや、発泡性の「スパークリング」タイプも多く、日本ワイン好きから高い人気を集めています。



ワインは、甘い華やかな香りが特徴、軽やかで爽やかな酸味が楽しめます。

華やかさのある甘い香りと味わいはエスニック料理とも好相性です。

ピザやトマト味のパスタなど、トマトソースの酸味が効いた料理と相性が良く、鶏肉のグリルや、旬の季節野菜を使った天ぷらなどとも美味しく楽しめます。

みんなでワイワイ楽しむのにおすすめ

みんなでワイワイ楽しむのにおすすめなのは「アスティ・スプマンテ」。
生産量が多く、イタリアでは乾杯のスパークリングワインとして親しまれています。世界各国に輸出されており、日本でも人気です、スーパーやコンビニで見かけることも多く手に入れやすいスパークリングワインです。


アスティとは

「アスティ」は、イタリア ピエモンテ州のワイン産地の名前、「スプマンテ」はスパークリングワインのこと。

ピエモンテ州は、重厚な赤ワイン「バローロ」や「バルバレスコ」で有名なワイン産地ですが、州内の他のエリアでも様々なタイプのワインが生産されており、特に、ぶどう品種「モスカート・ビアンコ」で造られる白ワインのアスティはとても人気があります。


アスティは4種類

・アスティ・スプマンテ Asti Spumante
スパークリングの甘口白ワイン

アルコール度数 6~9.5%

・モスカート・ダスティ Moscato d’Asti
微発泡性の甘口白ワイン

アルコール度数 4.5~6.5%

・アスティ・セッコ Asti Secco
スパークリングの辛口白ワイン

アルコール度数 約11%

・モスカート・ダスティ・ヴェンデンミア・タルディーヴァ Moscato d’Asti Vendemmia Tardiva
収穫の時期を遅らせ、熟して糖度が高くなったぶどうで造る甘口白ワイン
ヴェンデンミア・タルディーヴァとは「遅摘み」のこと

アルコール度数 約11%。

4種類のアスティは、すべて「モスカート・ビアンコ」というぶどうで造られます。「モスカート・ビアンコ」は、日本では生食用として人気が高い「マスカット」と同じ種類です。

モスカート・ビアンコは白い花やムスクのような香りを持つとても華やかな香りのぶどうで、ぶどう本来の果実味が口いっぱいに広がる甘口スパークリングを造るのに適しています。

アスティの味わいと楽しみ方

アスティは甘みと酸味のバランスが良く、爽やかで優しい口当たりが特徴、完熟マスカットのようなジューシーな味わいが楽しめます。また、一般的な辛口白ワインの度数(13%前後)と比べると、アルコール感も控えめです。

甘口でシュワシュワとガスを感じるアスティ・スプマンテやモスカート・ダスティなら、食前酒として、また、軽い前菜やフルーツと合わせたりするのがおすすめです。

また、唐揚げやフライドチキンとも好相性。ワインの甘味がチキンの旨味を引き立て、泡立ちが口の中をスッキリとさせてくれます。甘く華やかな香りはエスニック料理との相性も良く、お互いのスパイシーさが食欲を増進させてくれるようです。


デザートと合わせたり、ワインをデザートとして

ここからはつくり方でいうと B.のカテゴリー「果汁の糖度を上げる」方法でつくられたワインのご紹介です。

上記のワインに比べると甘さや味わいが濃くなりますので、飲み方としては、フルーツやデゼート(フルーツタルトなど)と楽しむのがおすすめです。

充実した美味しさは、ワインそのものをデザートとしても楽しめますよ。

・遅摘みのワイン

ぶどうの収穫時期を遅くまで待ち、完熟した状態のぶどう用いてつくられたワインです。
食後の甘いものとして、フルーツと合わせても美味しい甘さのワインで、ドイツのシュペートレーゼやアウスレーゼに代表されます。

シュペートレーゼ Spätlese

香り高く、味わいに深みのあるスタイルで、収穫時期の果汁の糖度が決められています。ドイツ内の各生産地域とぶどう品種により異なりますが、おおよそ80~95°エクスレ(※)となります。

(※)エクスレ
主に、ドイツで用いられるブドウ果汁の糖度測定法、またその数値の単位。 ドイツ人技師フェルディナンド・エクスレ氏が1830年代に提唱した比重計を用いたブドウ果汁の糖度測定法。 20℃の1Lの水と果汁の重さの差がエクスレ度となり、この数値をもとに潜在アルコール濃度を求めることが出来る。

アウスレーゼ Auslese

完熟しているか、一部に貴腐のついたぶどうを用いてつくられたワインです。香り高く複雑で深みがあり、時に貴腐葡萄に由来する香味を楽しむが出来る、充実した甘さのワインです。ドイツ内の各生産地域とぶどう品種により異なりますが、おおよそ88~105°エクスレ(※)となります。

食後のデザートとして

干しぶどうワイン、貴腐ワイン、アイスワインはどれも味わいが濃厚で豊かです。価格も効果になります。デザートに合わせるのはもちろん、ワインそのものをデザートに楽しめます。チーズと合わせたり、貫禄の味わいはワイン会のトリのワインとしても活躍してくれるでしょう。

・干しぶどうワイン

収穫したぶどうを干して糖度を上げつくられたワイン、代表としてイタリアのパッシートやフランスのヴァン・ド・パイユが挙げられます。

パッシート(PASSITO)

パッシートは、ブドウを風通しの良い部屋で3か月から6か月ほど陰干しして糖度を高め、半分乾燥した状態のブドウから造る甘口ワインの製造方法です。

イタリア全土で採用されている手法で、貴腐ワインのように貴腐菌の繁殖を必要としないため、縦長のイタリアの国土にマッチしているといえます。

パッシートと同様に、ブドウを陰干しして造るワインに、ヴェネト州で造られる「耳たぶ」という意味のレチョートや、ヴェネト州のヴェローナ近郊のヴァルポリチェッラ地域で、アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラなどがありますが、パッシートは、生産地域が限定されないというメリットがあるため、イタリア全土で用いられている製法です。

一般的には甘口ワインに仕上がり、陰干しにすることでドライフルーツや蜜のような香りが楽しめます。

食後にデザートに合わせたり、ワインをデザートとして楽しむのもおすすめです。ゴルゴンゾーラなどのブルーチーズとも好相性です。製造工程で手間や時間がかかるため価格も少し高くなります。

ヴァン・ド・パイユ

「ヴァン・ド・パイユ」は、フランス・ジュラ地方のワインです。 パイユは「藁・わら」を意味するフランス語で、「藁ワイン」と表現されることもあります。 収穫したぶどうを醸造前に藁の上で乾燥をさせ、水分が蒸発すると、糖分が凝縮したぶどうが出来上がります。 そのぶどうから造る甘口ワインをヴァン・ド・パイユと言います。


・貴腐ワイン

貴腐ワインとは

貴腐ワインは、「貴腐ブドウ」という極めて糖度の高いブドウを原料に造られた甘口ワインのことを言います。

貴腐菌、ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)というカビの一種が、ブドウの果皮に付着すると、菌糸が侵入して果皮の組織が破壊されます。さらに、日照が多く乾燥した天候が続くことでブドウ中の水分が蒸発していき、収穫時には糖分などのエキスが凝縮した貴腐ぶどうになるのです。水分が抜けた、干しぶどうのような状態のぶどうからの果汁は、エキス分が多くで極甘口となりますが、ほんの少量しかとれません。

貴腐ワインは、他の甘口ワインに比べて高価な甘口ワインとして知られています。理由として、果汁が凝縮して少なくなる点、貴腐ブドウの生育が自然条件に依存する点、収穫や醸造にも手間がかかるからなど上げられます。もし、貴腐化するのに不都合な天候変化が起これば、ただの腐敗になってしまいます。高いリスクを背負ったワインなのです。

味わいと楽しみ方

貴腐ワインは、独特の芳香と甘美な甘さを持つ極甘口ワインです。

色合いは琥珀色で粘性も豊かです。貴腐香と呼ばれる独特な香りやはちみつ、ドライフルーツを思わせる芳香が感じられるでしょう。
強い甘みがありますが、上質な貴腐ワイン、特にドイツのものは酸味もしっかりとあり、バランスが取れています。

充実した濃厚な甘さはそのまま極上のデザートとしてお楽しみいただけます。
ブルーチーズなどクセの強いチーズやスイーツ、フォアグラ料理など甘味やコクの強い料理と合わせるのが定番です。



・アイスワインとクリオ・エクストラクション

アイスワインとは

「アイスワイン」 とは、ぶどうの実が凍結した状態で収穫、凍ったまま圧搾して醸造したワインです。
ドイツであは「Eiswein」、カナダでは「Icewine」と表記されます。

通常、ブドウは晩夏~秋に収穫されますが、アイスワインの場合は収穫を遅らせて氷点下の外気温で木になった状態のブドウが凍るのを待ちます。

各国のワイン法によって、ドイツの場合は氷点下7℃以下で、カナダの場合は氷点下8℃以下でアイスワイン用のブドウが凍るのを待たなければなりません。また、収穫前後の果汁の糖分量にも、国ごとに規定があります。

これらの条件を満たしてようやく収穫を始められますが、収穫もまた氷点下の過酷な環境の中、数時間かけて手作業で行われます。その後、ブドウを凍結したまま圧搾、凍った水分をそのまま圧搾機の中に残します。

氷結により果汁が凝縮、糖分と共に酸度の高い、少量の果汁が得られます。出来上がったワインは、濃厚な味わいで甘口と酸味のバランスが取れたワインとなります。原料のエキス分は充実していますが果汁は少なく、その希少さから高価です。

アイスワイン用のブドウは人工的に凍結させてはならず、また、アイスワインを造る際にブドウ以外の糖分を加えることも認められません。
天候によって収穫時期や生産量が左右されるアイスワインは、近年は地球温暖化の影響も大きく、生産できない年もあります。

クリオエクストラクション

クリオエクストラクション(Cryoextraction)は、ぶどう果実の凍結を人工的に行うワインの製造手法です。この手法を用いることで、ドイツのような厳しい冬がない暖かい地域でも、アイスワインのようなワインを製造することが可能となります。

アイスワイン用のぶどう栽培では、寒い季節が到来するまで長らく樹上にブドウ果実を残しておく必要があるため、ブドウは病気や害虫、獣害の高いリスクにさらされます。

クリオ・エクストラクションではぶどうを凍結させるコストがかかりますが、それでも、アイスほどのコストはかからないというメリットがあります。

しかし、人工的な凍結手法を用いているために、当然、アイスワイン「 Eiswein」「Icewine」という名前を名乗ること、表記することはできません。

日本でもこの手法で甘口の素晴らしいワインがつくられています。



最後に

甘口ワインは様々な方法でつくられ、味わいも異なります。
好みや飲みたい背景に合わせて、楽しく美味しい甘口ワインをみつけていただきたいと思います。