第1話|『ファーゴ』 × フルーヴ・アムール 2014
雪が降る日は、世界から音が引いていく。
車の走行音も、人の気配も、感情の起伏さえも、白い余白に吸い込まれる。
こんな夜に観たいのは、
コーエン兄弟の映画『ファーゴ』。
広がる雪原。
抑制された会話。
どこか乾いたユーモアの奥に、静かに沈んだ人間の業。
感情を説明しすぎない映画だ。
語らない映画には、語りすぎないワインを
グラスに注ぐのは、
ゼリージュ・キャラヴァン
フルーヴ・アムール 2014。
朱色を含んだブラックガーネット。
カシスジャム、プルーン、湿った土。
熟成による丸みと、芯を残したタンニン。
SO₂無添加とは思えないほど落ち着きがあり、
一口目で語り尽くすことはない。
けれど、
飲み進めるほどに存在感が増していく。
それは『ファーゴ』とよく似ている。
派手な展開はないのに、
見終わったあと、なぜか心に残り続ける。
「愛の河」という名を持つ、静かな赤
Sur le fleuve amour
――「愛の河」というロマンティックな名前を持ちながら、
このワインは甘さで寄り添ってはこない。
70年樹のグルナッシュを主体に、
シラーとサンソー。
ピク・サン・ルーの高地(150〜250m)がもたらす酸が、
南仏らしからぬ緊張感を保っている。
完熟した果実の厚みと、
時間が削った角の取れた渋み。
静かだけれど、深い。
それが、このワインの本質だ。
雪の日の正解は、「急がない」こと
暖房の効いた部屋。
外は白く、映画は止めない。
ワインは一気に飲まない。
一杯目より、二杯目。
二杯目より、映画の後半。
雪の日は、
若いワインより、時間を重ねたものがよく似合う。
『ファーゴ』を観る夜に、
フルーヴ・アムール 2014を選ぶ理由は、
その“後半に強くなる美しさ”にある。
次の白い夜へ
この連載では、
雪の日に観たい映画と、
その静けさに寄り添う熟成ナチュラルワインを紹介していく。
ドラマチックじゃなくていい。
語りすぎなくていい。
雪の日は、
時間そのものを飲む夜なのだから。