ドイツのピノ・ノワールがいい感じらしいよ・・・、なんて耳にしたことはありませんか。
そうなんです、いい感じなんですよ。ドイツワインは甘い白ワインというイメージがあるかもしれませんが、近年劇的に変わりつつあります。
赤ワイン、特に “ピノ・ノワール” のクオリティが飛躍的に上がっているんです!

ピノ・ノワールとシュペートブルグンダー


ピノ・ノワールとシュペートブルグンダーはどこが違うの?

ピノ・ノワールはブルゴーニュ地方が原産の黒ブドウ品種、「シュペートブルグンダーは」ドイツでの別名で Spätburgunder と書きます。同じぶどうなのです。

Spät(シュペート)はドイツ語で「遅い」、burgunder(ブルグンダー)は「ブルゴーニュ」を指しますので、訳すと「遅いブルゴーニュ」となります。

シュペートブルグンダーは、884年にカール大帝のひ孫であるカール三世がドイツのボーデン湖の湖畔に持ち込んだと云われています。また、ラインがウでは、1136年に設立されたシトー派のエーバーバッハ修道院がブルゴーニュから持ち込んだ、という説もあるようです。

ワイン造りに適した緯度は、北半球・南半球ともに30〜50度と言われています。ドイツはフランスの右肩あたりに位置していて、緯度が高く、ワイン産地は概ね47〜52度に位置しています。日本と比較してみると、北海道の宗谷岬、稚内が北緯45度の位置です。ドイツが、北にある冷涼な気候の生産地であるとわかります。

ピノ・ノワールは暖かい気候の地域では、早く熟しますが、寒い気候では熟すのが遅くなります。冷涼な気候のドイツでは晩熟、ブルゴーニュからきた、熟すのが遅い品種ということで、「遅いブルゴーニュ」と呼ばれているという説もあります。

ワインの味わいの特徴

冷涼な気候で生み出されるドイツのピノ・ノワールは、引き締まった酸味と繊細な果実味、アルコール度数もそれほど高くないのが特徴です。




ドイツの主な赤ワイン生産地

ドイツの主だった赤ワイン産地ではどのようにピノ・ノワールがつくられているのでしょうか。

ドイツには全部で13の生産地域があります。このうちアールやバーデンが赤ワインの主要な産地といわれてきましたが、ここに来て新しい波も起きているようです。

地図引用 一般社団法人日本ドイツワイン協会連合会HP


アール

ドイツで最も北の生産地であり、四番目に小さな生産地です。ローマ時代からワイン造りが行われていたという説もある、歴史のある生産地のひとつです。


赤ワインが多くつくられ、ぶどうの栽培比率は白ぶどうが約20%、黒ぶどうが80%、黒ぶどうの内シュペートブルグンダーは約65%となっています。

ぶどうの栽培面積は約5百ha、ワインの生産量は約5万hlです、生産量の多いラインヘッセンは約245hlですので、この地域の生産量が少ないことがわかります。

アールのワインは専門店や外食産業などで、特別なワインとして高価格で提供されているとのことです。観光ルートが整っているライン・ルール地方からは至近距離であるため、ワインのほとんどが直販されています。日本であまりみかけないのは地元で消費・販売されてしまうからなんですね。


地図引用 一般社団法人日本ドイツワイン協会連合会HP


バーデン


バーデンは、ドイツでも最南に位置している温暖な気候の生産地です。ドイツで三番目に大きな地域で栽培面積は15,727ha (2022年)、 南北に約400kmにわたり細長く延びた地域に、地形、土壌、気候の異なった畑が広がっています。地図の黄緑色の地域です。

ぶどう栽培の広がりがみられる地域で、1964年には1839haだった栽培面積は2019年には11,717haと、半世紀余りで約6.4倍に拡大しました。2022年の数字を見ると8.5倍にまで広がっています。

その要因は温暖化に対するブドウ栽培と醸造技術における適切な対応、クローンと敵地、テロワール重視への回帰など様々で複合的です。

栽培されているぶどうの内、白ワイン用の品種が約60%、赤ワイン用の品種が40%でほとんどがシュペートブルグンダー。全体でみるとシュペートブルグンダーの栽培面積の約半分を占めています。

この土地の特徴ともいえますが、既に名声を得ている生産者の存在があります。

黄色がかった貝殻石灰岩の風化土壌が広がる「ブライスガウ」にはベルンハルト・フーバーが、火山岩破砕土壌の「カイザーシュトゥール」にはヘーガー、ベルヒャー、フランツ・ケラー、ザルバァイ等、トップの座に君臨し続ける素晴らしい生産者です。

ファルツ

ファルツは、ドイツで二番目に大きな生産地域で、栽培面積は約23,698ha (2022年) 、西のハルート産地からライン川に向かって続く平野にあります。ぶどう畑は産地のふもとの斜面から東西に最大15km、南北に85kmに渡って広がり、南端はフランスと隣接しています。

1980年代までは、交配品種(ミラートゥルガウなど)による甘口の量産ワインが盛んにつくられていました。1990年代後半になると伝統品種(リースリングなど)による、辛口で土地の個性を表現するワインを目指す生産者が登場し、ぶどう畑の格付けも始めました。

別の面でみると、若手の醸造家の躍進が注目される産地でもあります。かつてファルツの3Bと呼ばれた大御所中心の産地から、品質向上に熱心な若い醸造家たちの活躍する産地に変化しているようです。


ファルツのピノ・ノワールと言えば、フリートリヒ・ベッカーの名前があげられます。フランス国境にあり素晴らしワインを生み出している生産者です。

旧ゴーミヨのチームが、2年前に立ち上げたワインガイド「VINUM」2020年度版で、2017年ピノ・ノワール・トップ10のうち6つがファルツ産でした。この地域の先達であるとレープホルツを抑え、HEワインとベルンハルト・コッホが各2アイテムをランクインさせました。

コッホは現醸造長の坂田千枝女史が2013年に入社してから頭角を現し始め、ここ5~6年は毎年、複数のワインガイドでトップ10入りしています。『VINUM』の2024年版では4星評価を獲得しており、特に優れたピノ ノワールを生産することが評価され、同誌において、赤ワイン生産者の年間最優秀賞である「Roter Riese(Red Giant=直訳で赤色巨星あるいは赤の巨人)」を受賞しました。


ドイツ・ファルツのピノ・ノワールを味わってみよう!

ヴァイングート・ユルグ カルクメルゲル シュペートブルグンダー 2018

ファルツ地方、シュヴァイゲン地区のピノ・ノワールです。


現在の当主、ヨハネス・ユルグはワイナリーの三代目、現在、世界で注目を浴びるドイツのシュペートブルグンダー生産者の若手の代表格として広く認知されています。

ぶどうは、グラン・クリュに相当するヴォルムベルグとカマーベルグの二つの区画の畑から、樹齢は3~10年の若木が中心、ぶどう樹の多くはフランスのクローンで一部ドイツのクローンも植えられています。


野生酵母で発酵を促し、2~4回使用した古バリックで18ヶ月熟成の後にボトリングしました。清澄・濾過は行っていません。

しっかりしたスタイルのピノ・ノワールです。

黒すぐりや山ぶどう、ザクロのような果実の香りや土のついた野菜を思わせる香りも、時間が経つとアメリカンチェリーを煮た甘い香り、プルーンや野ばらのような花を思わせる香りが出てきます。
赤紫蘇や生肉にニュアンスも感じ、香ばしさ、少しチョークのような香り、などなど…、複雑さや、土地の個性につながる印象です。
味わいは、しっかりとした果実味と豊かな酸味がバランスよくまとまっています。中程度の渋みがあり、ピノ・ノワールとしてはかなりしっかりとした印象です。

ベルンハルト・コッホ ヘレンブッケル ピノ・ノワール クヴァリテーツヴァイン トロッケン 2020

ベルンハルト・コッホは、ドイツのファルツ地方にあるワイナリーです。今やこの地方トップの生産者の一つに数えられ、「ゴ・エ・ミヨ2023」で赤4房、「ヴィヌム2023」で4星という高評価を得ています。

フレムリンゲン村の単一畑「ヘレンブッケル」のピノ ノワールでつくられています。
畑は南西向きで、標高196m、砂岩と石灰岩の混ざる土壌です。コルドン仕立てで、収量を少なくして、畑で選別しながら手摘みで収穫します。


ピノ・ノワールらしいよい香り、熟した果実とクミンやローリエなどのスパイスの要素が調和しています。なめらかな口当たりがなんとも言えません。


コッホワイナリーでは、昔からのドイツでのつくり方を継承するスタイルを「シュペートブルグンダー、フレンチオークを用いたブルゴーニュスタイルを「ピノ・ノワール」とつくり方で名称を分けています。このワインは後者のスタイルです。


ベルンハルト・コッホ ハインフェルダー・レッテン ピノ・ノワール レゼルヴ クヴァリテーツヴァイン トロッケン 2018

このワインは、ハインフェルト村の「レッテン(Letten)」の畑の葡萄からつくられています。コッホ家が所有する畑の中でも、最も素晴らしいピノノワールとシャルドネが育つ葡萄畑が「レッテン」です。

輝きのあるガーネット色、紫や黒の果実の力強いアロマに樽由来のスパイシーさ、ミネラルのニュアンスが感じられます。口当たりはたっぷりとフルボディ、非常にジューシーで心地よい酸が感じられます。凝縮された果実味としっかりとしたタンニン、酸があり、長期熟成に耐えうるスケールの大きな赤ワインです。