はじめに

ブルゴーニュは若いうちから美味しい。
もちろん、それも間違いではありません。
華やかな赤い果実。
生き生きとした酸味。
透明感のある味わい。
若いピノ・ノワールには、その時期ならではの魅力があります。
しかし、私がブルゴーニュに惹かれ続けている理由は、そこではありません。
時間を重ねたピノ・ノワールだけが見せてくれる、美しさがあるからです。
果実の香りは少しずつ落ち着き、紅茶やドライフルーツ、森の下草、キノコ、スパイスなど、若い頃にはなかった要素が現れてきます。
味わいにも丸みが生まれ、酸味やタンニン、果実味が馴染み、ひとつにまとまっていく。
ブルゴーニュの熟成には、若いワインとは違う楽しみがあります。
若いブルゴーニュは「果実」を楽しむワイン
若いブルゴーニュは、
チェリー、ラズベリー、イチゴ、スミレなど、明るく華やかな香りが中心になります。
酸もまだ若々しく、ワイン全体が生き生きとしています。
これはこれで、とても魅力的です。
特に近年は、比較的若いうちから果実の熟度を感じられるブルゴーニュも多く、リリースされて間もないワインにも十分な楽しみがあります。
一方で、ピノ・ノワールは時間を重ねることで、若い頃とは異なる表情を見せる品種でもあります。
果実の華やかさが少しずつ落ち着き、その奥に隠れていた香りや味わいが現れてきます。
熟成すると、香りは果実だけではなくなる
熟成したブルゴーニュをグラスに注ぐと、若いワインとは明らかに違う香りに出会うことがあります。
赤い果実はドライチェリーなどの落ち着いた印象へ。
さらに、
紅茶、落ち葉、森の下草、キノコ、なめし革、スパイスなどの複雑な香りが重なっていきます。
状態の良い熟成ブルゴーニュでは、そこに醤油や出汁を思わせるような、旨味を連想するニュアンスを感じることもあります。
もちろん、すべてのブルゴーニュが同じように熟成するわけではありません。
畑、生産者、ヴィンテージ、醸造方法、そして保存状態によっても変化は異なります。
だからこそ、同じピノ・ノワールでありながら、一本ごとに違った熟成の姿を楽しめるのでしょう。
熟成したブルゴーニュに感じる「艶」
私が熟成したブルゴーニュを表現するとき、よく使う言葉があります。
「艶」です。
これは単に口当たりが滑らかになった、ということだけではありません。
若い頃にはそれぞれにはっきりと感じられた果実味、酸味、タンニンが、時間とともに馴染んでいく。
そこに熟成によって生まれた複雑な香りや旨味が加わります。
それぞれの要素が突出するのではなく、一つのワインとしてまとまったときに感じる滑らかさや奥行き。
それを私は「艶」と表現しています。
私がブルゴーニュに惹かれるようになった一本
私自身、最初からブルゴーニュが好きだったわけではありません。
20代後半の頃、ブルゴーニュを勉強するワイン会で味わった、ヴォギュエのミュジニー 1966年です。
当時の私は、果実味が豊かで力強いカリフォルニアワインが好きでした。
ブルゴーニュも飲んではいましたが、どちらかといえば「繊細なワイン」という印象しか持っていませんでした。
ところが、その一本は、それまで私が知っていたワインとはまったく違いました。
グラスから立ち上る香りは、思わず息をのむほど華やかでした。
熟した果実だけではありません。
花や紅茶、森を思わせる複雑な香りが幾重にも重なり、時間とともに次々と表情を変えていきます。
口に含むと、果実味は決して力強いわけではありません。
むしろ驚くほど上品で繊細です。
それなのに、ワイン全体からは圧倒的な存在感とスケールの大きさが伝わってきました。
「繊細なのに、これほどまでに雄大なワインがあるのか。」
その瞬間、熟成ブルゴーニュに対する私の価値観は大きく変わりました。
それ以来、私はブルゴーニュの魅力を語るとき、「力強さ」よりも「美しさ」という言葉を使うようになりました。
時間だけが育てる香り。
時間だけが生み出す艶。
それこそが、熟成したブルゴーニュならではの魅力だと思っています。
もちろん、今でもヴォギュエの1966年を探せば見つかるかもしれません。
しかし、その価格は、20代の頃に出会えた時代とは比べものにならないほど高くなっています。
だからこそ、あの時に味わえたことは、私にとってかけがえのない経験でした。
忘れられないブルゴーニュ
アルマン・ルソー シャンベルタン1966
もう一本、同じ頃に飲んだ忘れられないワインがあります。
アルマン・ルソー シャンベルタン1966年です。
これも20代後半、ワインを勉強する仲間が集まる席でのことでした。
その会を率いていた、いわばワインの先生のような存在の方が提供してくださった一本です。
飲んだ時点ですでに30年ほど経過していました。
ところが、古さを感じさせるどころか、まだ若々しさを十分に残していました。
同時に、熟成による艶や複雑さも感じられる。
特に印象に残ったのは、そのスケール感です。
当時よく耳にした、
「ブルゴーニュは王様のワイン」
という表現を、初めて実感したワインでもありました。
30年を経てもこれだけの状態であれば、さらに長い時間を重ねても高い品質を保つのではないか。
そう思わせるだけの余力がありました。
果実味の濃さやアルコールの強さとは違う、ワインそのものの骨格や奥行き。
長期熟成するブルゴーニュには、こうしたスケールを持つものがあることを知った一本でした。
ブルゴーニュは、古ければ古いほど良いわけではない
ここまで書くと、
「では、ブルゴーニュは長く熟成させれば美味しくなるのか」
と思われるかもしれません。
必ずしもそうではありません。
すべてのブルゴーニュが長期熟成に向いているわけではなく、長く置けば必ず良くなるというものでもありません。
また、長期熟成が期待できる優れたワインにも、難しさがあります。
その一つが、熟成途中の閉じた時期です。
素晴らしいワインでも、開ける時期によって印象は変わる
以前、ワイン会で著名な生産者のピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュを飲んだことがあります。
当然、参加者の期待も高いワインでした。
ところが抜栓してみると、香りがほとんど開いてこない。
味わいも硬く、本来持っているはずの魅力を十分に感じることができませんでした。
主催された方が申し訳なさそうにされていたことを覚えています。
ワインそのものが悪かったわけではありません。
まだ飲む時期ではなかったのでしょう。
この経験からも、ブルゴーニュでは、
「何を飲むか」だけでなく「いつ飲むか」も重要
だと感じています。
飲み頃は一つではない
ワインの飲み頃については、明確に「この年」と決められるものではありません。
若い果実味を残した状態を好む人もいます。
果実味が落ち着き、熟成香が現れ始めた頃を好む人もいます。
さらに時間を重ねた、複雑で柔らかな味わいを好む人もいます。
同じワインでも、どの時点を最も美味しいと感じるかは飲み手によって違います。
また、同じ銘柄、同じヴィンテージでも、保管されてきた環境によって状態が異なることがあります。
ヴィンテージワインでは、年数だけでなく現在の状態を見ることがとても大切です。
時間によって生まれる、ブルゴーニュのもう一つの魅力
若いブルゴーニュには、若いワインの良さがあります。
一方、時間を重ねたブルゴーニュには、若いワインでは得られない香りや味わいがあります。
華やかな果実が落ち着き、複雑な熟成香が現れる。
酸やタンニンが馴染み、味わいに丸みが出る。
そして、良い状態で熟成したブルゴーニュには、若い頃とは違う「艶」が感じられることがあります。
私が20代で飲んだヴォギュエのミュジニー1966年や、アルマン・ルソーのシャンベルタン1966年も、そうした熟成ブルゴーニュの魅力を知るきっかけとなったワインでした。
ヴィンテージワインを扱うようになった今、重視しているのも単純な古さではありません。
年数ではなく、そのワインが今どのような状態にあるのか。
そして、
今、飲んで美味しいかどうか。
konishi1924では、そこを大切にしながらヴィンテージワインをご紹介しています。
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