
秋になり、日が暮れる時間が少しずつ早くなってくると、夜の過ごし方も変わってきます。
暑い夏にはよく冷やしたワインを気軽に楽しんでいたのが、秋になると、食事を用意してゆっくりグラスを傾けたくなる。
そんな季節の節目にあるのが、十五夜のお月見です。
秋の澄んだ夜空に浮かぶ月を眺めながら、旬の食べ物と一緒にワインを楽しむ。
特別な準備をしなくても、いつもの夕食に一本のワインがあるだけで、少し違った秋の夜になります。
今回は、そんなお月見の夜に楽しみたいナチュラルワインと秋の食卓についてご紹介します。
十五夜にワインを開ける
お月見というと、まず思い浮かぶのは月見団子やすすきでしょうか。
けれども、お月見の楽しみ方に決まりがあるわけではありません。
窓から月を眺めながら夕食をとったり、食後に少しだけベランダに出てみたり。
そこにワインを一本加えるだけでも、十分に秋らしい時間を楽しめます。
この時期の食卓には、栗、きのこ、さつまいも、里芋、梨、柿など、秋ならではの食材が並び始めます。
こうした少し素朴で滋味のある食べ物に合わせてみたいのが、造り手の個性が感じられるナチュラルワインです。
お月見にナチュラルワインを選ぶ理由
ナチュラルワインには、世界共通の厳密な定義があるわけではありません。
一般的には、農薬や化学肥料などにできるだけ頼らず育てたブドウを使い、醸造の段階でも人為的な介入を少なくして造られるワインを指します。
野生酵母による発酵、濾過や清澄を控えること、亜硫酸(SO2)の使用を抑えることなど、造り手によってその方法はさまざまです。
大切なのは、「ナチュラルワインだからこの味になる」ということではありません。
すっきりと透明感のある白もあれば、果実味豊かな赤もあり、果皮と一緒に醸した複雑なオレンジワインもあります。
土地やブドウ、その年の気候、そして造り手の考え方。
そうした違いが一本一本のワインに表れます。
季節の移り変わりを感じながら月を眺めるお月見の夜だからこそ、そんな背景を持つワインをゆっくり味わってみるのも面白いのではないでしょうか。
※ナチュラルワインについて詳しく知りたい方は、関連記事「ナチュラルワインとは?」もあわせてご覧ください。
お月見の食卓には、どんなワインが合う?
お月見というと、まず思い浮かぶのは月見団子かもしれません。
ただ、ワインと一緒に楽しむことを考えるなら、もうひとつ注目したい秋の食材があります。
里芋です。
十五夜は「芋名月」とも呼ばれ、かつては収穫した里芋などを月に供え、秋の実りに感謝する行事でもありました。
丸い里芋を器に盛れば、どことなく月見団子のようにも見えます。
今年のお月見は、団子の代わりに里芋を食卓に。
そこからワインを選んでみるのも面白いと思います。
里芋の煮物 × やわらかな白ワイン

まず合わせやすいのが、だしを含ませた里芋の煮物です。
里芋そのものは味わいが穏やかで、ねっとりとした食感とほのかな甘みがあります。
醤油やみりんを強く効かせるよりも、だしを中心に薄味に仕上げると、ワインとの相性もよくなります。
合わせるなら、酸味が強すぎず、果実味にふくらみのある白ワイン。
アルザスの白ワインなどもおすすめです。
里芋のやさしい甘みとワインの果実味が重なり、だしの旨味が両者をつないでくれます。
おすすめワイン
・ロベール・ロット アルザス ミッテルブルク リースリング 2019
・クリスチャン・ビネール G マセラシオン ヴァン・ド・フランス ヴィニフィエ・パー・ジュンコ 2023
焼き里芋 × オレンジワイン
もう少しワインを主役にするなら、里芋を焼いてみるのもおすすめです。
皮ごと蒸した里芋を軽くつぶし、オリーブオイルをかけて表面を香ばしく焼く。
塩を少し振るだけでも十分ですが、ローズマリーなどのハーブを添えてもよいでしょう。
ここには、果皮とともに醸したオレンジワインを。
里芋のねっとりとした食感にワインの果実味が重なり、焼いた表面の香ばしさには、オレンジワインのほのかな渋みやスパイスを思わせる風味がよく合います。
「和食にワイン」というより、秋の素材そのものをワインと楽しむ組み合わせです。
おすすめワイン
・クリスチャン・ビネール アルザス ル・スカラベ スキンタッチ 2018
・ドメーヌ・ロベール・ロット アルザス ホーンシュタイン ホランジュ 2021
里芋ときのこのグラタン × ふくよかな白ワイン

秋の夜が少し肌寒くなってきたら、里芋ときのこを使ったグラタンもおすすめです。
里芋のねっとりとなめらかな食感、きのこの旨味、クリームやチーズのコク。ここには、果実味にふくらみがあり、きれいな酸味を持つ白ワインを合わせてみます。
たとえば、ブルゴーニュのシャルドネ。
クリームやチーズのまろやかな味わいを受け止めながら、シャルドネの酸味とミネラル感が口の中をすっきりと整えてくれます。
また、アルザスのピノ・グリのように、果実味に厚みを持つ白ワインもよく合います。里芋のやさしい甘みや、きのこの旨味と重なり、よりふくよかな組み合わせになります。
温かいグラタンと白ワイン。
満月を眺めながら、ゆっくり楽しみたい秋の組み合わせです。
おすすめワイン
・ルー・デュモン ブルゴーニュ・ブラン キュヴェ・ファミーユ 2020
・シャトー・ドルシュヴィール アルザス ピノ・グリ シェルマン 2014
里芋の田楽 × 軽やかな赤ワイン
赤ワインを飲みたいなら、里芋を田楽に。
味噌の甘みと香ばしさが加わることで、白ワインだけでなく赤ワインも合わせやすくなります。
ただし、力強くタンニンの多い赤ではなく、果実味があり酸味のきれいな軽やかなタイプを。
ピノ・ノワールや軽やかなグルナッシュなどがおすすめです。
味噌の旨味とワインの果実味が重なると、里芋だけのときとはまた違った秋らしい味わいになります。
おすすめワイン
・クリスチャン・ビネール アルザス ピノ・ノワール 2023
・ヴィネヤー・ド・ラ・ルカ キックオフ 2020
「月の満ち欠け」とワイン造り
お月見とナチュラルワインについて考えるとき、もうひとつ興味深いのが、月とブドウ栽培との関係です。
ナチュラルワインの造り手の中には、ビオディナミ農法を取り入れている人たちがいます。
ビオディナミでは、畑をひとつの生命体として捉え、植物や土壌だけでなく、季節や月など自然界の周期も意識しながら農作業を行います。
すべてのナチュラルワインがビオディナミで造られているわけではありませんが、当店で扱っている生産者の中にも、こうした考え方を大切にしている造り手がいます。
たとえば、アルザスのクリスチャン・ビネール。
1770年から続く歴史ある造り手でありながら、畑ではビオディナミを実践し、古いフードルなどを使いながら、できるだけブドウそのものを生かしたワイン造りを続けています。
満月を眺めながら、そのワインが育った畑や造り手のことを少し想像してみる。
それも、お月見の夜ならではのワインの楽しみ方かもしれません。
お月見の夜におすすめしたいワイン
お月見のワインを選ぶとき、見た目だけで「月に似合うワイン」を選ぶ必要はありません。
大切なのは、その夜に何を食べるか、そしてどんなふうに過ごしたいかです。
食事の最初から楽しむなら、酸味のきれいな白や軽やかな赤。
栗やきのこなど秋の料理を囲むなら、少し複雑さを持ったオレンジワイン。
食後、月を眺めながらもう一杯楽しむなら、香り豊かな白や、ほんのり甘みを残したワイン。
一本のワインを選ぶところから、お月見は始まっているのかもしれません。
当店では、アルザス、ロワール、南フランスを中心に、造り手の考え方が感じられ、なおかつ味わいが綺麗だと感じられるナチュラルワインを選んでご紹介しています。
家で楽しむ、小さなお月見
大げさな準備をする必要はありません。
夕食のテーブルに小さな器で栗や里芋を添える。
いつもの照明を少し落として、窓の外の月を見る。
ワインを少し大きめのグラスに注ぎ、香りが変化していくのをゆっくり楽しむ。
それだけでも十分です。
ナチュラルワインには、開けた直後と30分後、一時間後で香りや味わいの印象が変わるものもあります。
料理を食べながらゆっくり一本を飲んでいると、最初は果実の香りが中心だったワインから、次第にハーブやスパイス、土、紅茶のような複雑な香りが現れてくることもあります。
月の位置が少しずつ変わっていくのと一緒に、グラスの中の変化を楽しんでみてください。
秋の夜、月と一緒にワインを楽しむ
十五夜は「芋名月」とも呼ばれ、里芋など秋の実りに感謝してきた行事です。
お月見というと月見団子を思い浮かべますが、今年は少し趣向を変えて、里芋を食卓の主役にしてみるのもよいかもしれません。
だしを含ませた里芋の煮物には、やわらかな白ワインを。
香ばしく焼いた里芋には、少し複雑さのあるオレンジワインを。
里芋ときのこのグラタンには、きれいな酸味を持つブルゴーニュのシャルドネを。
同じ里芋でも、調理の仕方によって合わせたいワインも変わります。
昔から続くお月見の風習を大切にしながら、今の食卓に合う楽しみ方を見つけてみる。
そんなふうに季節の食べ物とワインをゆっくり味わうことが、秋の夜を少し豊かにしてくれるのではないでしょうか。
今年の十五夜は、月を眺めながら、里芋料理とお気に入りのワインをゆっくり楽しんでみませんか。